北尾トロ「キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか」を読んだ。

キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか (朝日文庫)
北尾トロ 朝日新聞出版 (2013-02-07)売り上げランキング: 93,242


北尾トロ「キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか」を読みました。

ヒマラヤを制したという下着の宣伝文句を信じていいのか。オムツを履いて排泄するとはいかなる気持ちか。自宅を売却するときに起こる出来事とは?
身の回りにあふれるさまざまな疑問を、身体を張って解決する、体当たり系ルポルタージュ集。
 
まず、なんて良いタイトルなんだろう。笑
小気味良い語り口の文章はテンポがよく、文章そのものが面白いので、するする読めます。
そんな文体で語られる内容が、ヒマラヤ下着にしろ、オムツにしろ、実際に現場に飛び込んで、身体を張ってやってみた結果の詳細なる報告なので、こんなの、面白くないわけがない。やってみて初めてわかる「気づき」がよく拾われているので、へえー、そうなんだ、ほほー、と感心しながら読みました。

ただ、オチまでしっかり効いた完成度の高いルポと、そうでないものの差が、けっこう激しい。割合としては半々くらいかしら。そのへんのぬるさもまたご愛嬌というか、北尾ワールドという感じがします。

さて、その中でも、特に完成度の高い、人生哲学にまで踏み込みそうなインパクトを持ったレポがひとつあり、それがどうにも忘れられません。
「私の志集」にまつわるお話です。

東京在住の人なら一度は目にしたことがあるであろう、「私の志集」と書かれたボードを首からぶら下げ、新宿駅の周辺などに立って、何かを売っている女性。彼女は一体何者なのか。「私の志集」とはなんなのか。彼女は何を思い、日々、そこに立ち続けているのか。

その疑問を解決すべく、「私の志集」売りの女性と接触をはかり、直接、聞いた話を伝えたルポが掲載されているのですが、これが、あまりに深い。
女性本人から聞いた話、そして、女性から購入した「私の志集」を読んでわかった話、それらはいずれも断片的で、なんだかとても一筋縄ではいかなさそうな複雑な人間関係の下に、「私の志集」という本が成り立っているらしいということが、おぼろげに見えるのみ。ただ、そんな重たげなものを背負いながら、17年以上にも渡って、雑踏の中に立ち続ける彼女の言葉には、なんともいえない凄みがあります。

そして、それから10年以上が経ったある日、東日本大震災が発生します。経験したことのない状況にアタフタする日々を送る筆者は、ある日、被災していない人間までアタフタしていてどうする、どーんと構えていたい、そのためにも、どっしりと根を張り、何が起きようと揺るがない人の姿を見たい、と感じます。そのとき、頭に浮かんだ人物は、「私の志集」売りのあの女性、ただ一人でした。
筆者は彼女を訪ねて、再び新宿駅へと赴きます。果たして、彼女はそこに立っているのか。彼女の目に、震災後の東京の人々は、どう映ったのか。

……という、なんだかもう「深夜食堂」もびっくりなリアルストーリーが語られています。事実は小説よりもなんていうけれど、まったくもってそうだなぁと、思わず頷いてしまう。いろんな人生があるのだなぁと唸ってしまいました。